掲載日:2021年1月5日
7月から進めていた旧浦野家土蔵の瓦屋根葺き替え工事は、10月20日に終わりました。
工事の様子を振り返り、報告します。
<写真 竣工 (令和2年10月22日撮影)>新しい瓦に葺き替えられました。
1.既存の瓦の撤去作業を行いました。
旧浦野家土蔵の屋根は、土蔵本体の大屋根は瓦を桟に引っ掛ける【引っ掛け桟瓦葺き】、下屋の屋根は瓦を土の上にのせる【土葺き】という工法でつくられています。
【引っ掛け葺き】は【土葺き】よりも新しく、屋根の重さが軽量化されることや、地震で落ちにくい工法として、関東大震災以後に急速に広まっていきました。
<写真 引っ掛け葺きの大屋根の解体作業の様子 (令和2年7月28日撮影)>
2.既存の下地を確認・修理して、瓦を葺くための下地を作ります。
今回の工事では、総葺き替えでしか出来ない下地の確認を行いました。
杉皮で下地を仕上げ、瓦を固定するための桟木(瓦桟)を打ちます。
桟木が水平に固定されていないと、瓦を水平に並べられなくなったり、屋根の勾配が部分的に変わってしまう恐れがあるため、桟木のうち付けは重要な作業です。
<写真 屋根下地の桟木(瓦桟)を打っている様子(令和2年8月18日撮影)>
3.瓦を葺きます。
本工事では、新規の瓦を【だるま窯】で焼成しました。【だるま窯】は、現在一般的に使用されているガス窯に比べて焼きムラやねじれが生じやすいので、瓦をきれいに並べるために桟木や瓦の重ね方によってねじれによるズレを調整しました。
<写真 下地の上に瓦を葺いている様子(令和2年8月20日撮影)>
瓦葺きの作業は、軒先の「①軒瓦」からはじめ、次に両端の縦列「②けらば瓦」と中央の縦列の「②平瓦」を棟の手前まで並べます。そして縦列の右から左に向かって、一列ずつ「③平瓦」を葺き進めます。平瓦を終えた後に、「④棟瓦」を葺く作業を行いました。
棟は平らな熨斗(のし)瓦と丸瓦を重ね、両脇には鬼瓦を据えます。鬼瓦は既存の瓦を再利用しました。
<図 瓦を葺く手順>
<写真 棟の鬼瓦を据えている様子(令和2年8月27日撮影)>
<瓦について>
◎世田谷区内における瓦の製造について
戦前頃までは多摩川下流域で瓦の生産が行われており、区内においても瓦の製造が行われていた記録が残っています。現代の瓦の製造は一般的にガス窯で行われますが、かつて区内で瓦が製造されていた頃は、平らな土地に造られた土製の「だるま窯」という窯で、薪を焚いて瓦を焼く方法が一般的でした。
旧浦野家住宅土蔵の屋根を解体して下ろした瓦の中には、「砧製造」や「二子瓦権」などの刻印があることから、多摩川下流域で製造されたことが確認できました。
<写真 既存瓦の「二子瓦権」(右から読む)の刻印 (令和2年7月30日撮影)>
◎今回製造した新規瓦について
今回の工事では、屋根の瓦を全て葺き替える総葺き替えを行いました。
屋根の形状を変えずに葺き替え、さらに既存の瓦に出来るだけ近い質の瓦にするため、現在では日本に数カ所しか残っていない「だるま窯」(群馬県藤岡市/共和建材)で既存の瓦と同寸法の瓦を新規に製造しました。
修理を終えてきれいになった瓦屋根を見に、ぜひ岡本公園民家園へお越しください。
工事請負 有限会社 小川(兼)ハウス
瓦屋根工事 岩崎瓦工業