掲載日:2021年3月24日
8月17日より行っていた旧谷岡家住宅表門の茅葺き屋根修理工事が11月27日に終わりました。
工事の様子を振り返り、報告します。
<左写真:工事前の旧谷岡家住宅表門(令和2年3月12日撮影)、右写真:工事後の旧谷岡家住宅表門(令和2年11月27日撮影)>
1.茅葺き屋根について
茅葺き屋根の「茅」とは、屋根に使われる草類(ススキやヨシなど)の総称で、屋根を覆いつくることを「葺く」といいます。日本では古くから草を材料とする茅葺きの屋根がありました。また、世田谷地域では、茅にススキや麦からを使用した茅葺き屋根がありました。
2.茅葺き屋根の維持管理について
茅葺き屋根は、茅を重ねて屋根を厚くし、水が流れる勾配に葺くことで、雨水が浸透しにくい丈夫な屋根になります。ただし、茅は自然素材であることから、風雨にさらされることで劣化し、屋根の厚みが薄くなり、雨漏りしやすくなります。また、日が当たりにくい・高木からの雨水が屋根にかかるなど、屋根の周囲の環境によって、劣化が進みやすくなることもあります。
このようなことから、茅葺きの屋根を維持管理では、日々変化していく屋根の様子を確認し、周辺環境を改善するなどの対応をしながら、適切な時期に修理を行うことが必要です。
3.修理方法と手順について
茅葺き屋根の修理には、屋根の傷んだ箇所をスポット的に直す小規模な修理や、広範囲の屋根の劣化を面的に修理する中規模の修理、そして屋根材を下ろして下地まで修理を行う大規模の修理などいくつかの手法があります。
旧谷岡家住宅表門では、茅の傷みが屋根の全体に見られたものの、傷みの進行は屋根表面に留まっていため、既存の茅を再使用して新たな茅を補填する、中規模の修理を行いました。
修理の手順を屋根の断面イラストで説明します。
①屋根表面の傷んだ茅を刈り取ります。
②軒の茅を引き出し、屋根(軒)の厚みを決定します。
③既存の茅(ヨシ)を引き出しながら葺きます。
④既存の茅(ヨシ)を引き出した上に、新規の茅(ススキ)を葺いて屋根面を仕上げます。
⑤棟を葺き直します。
⑥最後に屋根面を刈り込み、終了です。
4.修理作業の様子
今回の工事では、大きく3つの作業を行いました。修理作業の様子を写真で振り返ります。
(1)屋根表面を中心とした、茅の傷んだ部分を除く作業
<左写真:苔が繁茂し傷んだ屋根表面の様子、右写真:茅の傷んだ部分を刈り取った様子(いずれも令和2年8月20日撮影)>
(2)屋根を適切な厚みにするために、既存の茅を引き出し、新規の茅を追加する作業
<左写真:屋根の角の茅を引き出している様子(令和2年8月25日撮影)、右写真:引き出した茅を縄で結びながら整えている様子(令和2年8月29日撮影)>
(3)棟を解体し葺き直す作業
<左写真:棟の下地の杉皮を葺いている様子(令和2年10月22日撮影)、右写真:竹すのこをのせて仕上げた棟と屋根面を鋏で刈り込み仕上げている様子(令和2年10月29日撮影)>
5.修理のポイント
旧谷岡家住宅表門では、移築工事の際にススキの入手が難しかったことから、既存の茅は主にヨシで構成されていました。ただし、世田谷地域では、茅にはヨシよりもススキの使用が高かったことから、今回の工事では、新しく追加する茅にはススキを使用しました。ヨシは比較的葉が少なく固い素材である一方で、ススキはヨシに比べると柔らかい素材です。屋根に異なる種類の茅を混ぜて葺いた場合、柔らかい茅に雨水が流れやすくなるため、固い茅に比べて柔らかい茅の部分の劣化の進行が早くなり、屋根表面に凹凸が生じることが分かっています。屋根表面の凸凹が生じると、水が凹んだ箇所に集中していくため、局所的に屋根の傷みが進行しやすくなります。
そこで本工事では、ヨシを屋根の下部に、ススキを屋根の上部に葺き分けることで、茅の種類の違いによる劣化への影響を最小限に留める方法を採用しました。茅の葺き分けにより、屋根の表面の仕上がりに独特な模様が生まれました。
こうした模様も、風雨にさらされると屋根表面が黒ずんでいき、徐々に色味が均一化していきます。
<写真 屋根の下部の黒ずんでいる部分は既存の茅(ヨシ)、上部の黄色い部分は新しい茅(ススキ)が使用されています。(令和2年11月5日撮影)>
葺き上がった屋根を見に、是非、次大夫堀公園民家園にお越しください。
工事請負 株式会社 関工務所(群馬県)
茅屋根工事 かやぶき五十嵐(群馬県)